物価対策はどうあるべきか

現下の経済対策の最大の課題は物価対策である。今年1〜7月平均の物価上昇率(総合、前年比)は約3.5%。この間の名目賃金は2.5%の増加にとどまっているから、勤労者の生活水準は低下している。国民の多くが物価対策を求めるのは当然である。であれば政治的に何とかしようと考えるのも当然だ。しかし、誰もが求め、誰もがすすめようと考えているからこそ、物価対策はどうあるべきかを冷静に考えておくべきだ。

物価対策として第1に考えられるのは、上昇率を下げることだ。需要の伸びによる需給逼迫で起きる物価上昇であれば、財政金融政策による需要抑制が必要となる。しかし、需給ギャップはほぼ均衡状態であり(内閣府推計)、現時点での物価対策には当てはまらない。供給面の制約によるコストプッシュ型の物価上昇に対しては、2022年初めから生じた輸入価格上昇による物価上昇に対して、補助金によってガソリン、電気・ガス料金などを抑制した例がある。
しかし、こうした財政出動型の物価抑制は避けるべきだ。消費を節約せよという市場のシグナルに逆行することになるし、財源の裏付けのない財政措置は、将来世代の国民負担を増やすからだ。消費税率の引き下げによって物価を下げようとするのも同じである。

第2は、物価上昇によって困っている人へ所得移転をすることだ。これについては、22年以降、経済対策による給付金配布が実施されてきた。しかし、物価が上がるたびに、財源の不明確な給付金を配っていたら、財政赤字が累積するばかりとなるから、これも将来世代の負担となる。

第3は、名目賃金の上昇率を高めることであり、これこそが現下の物価対策の王道だ。長期的な視点から、労働の円滑な移動や働く人たちのリスキリングを後押しする、研究開発投資を促進する、規制緩和を進めて民間企業が活動しやすい環境を整えるといった政策が必要だ。

付加価値生産性の上昇を通じて国民生活を豊かにすることは、物価の姿がどうあれ、いつの時代においても経済政策の中心であるべきだ。国民が物価対策を求めているからといって、物価そのものに働きかけることが最善の政策になるとは限らないのである。

(参考 日経新聞 令和7年9月17日より)