集団的自衛権を一部認める安全保障関連法が成立して19日で10年を迎える。自衛隊の任務は広がり、敵のミサイル拠点を打撃する「反撃能力」は実装段階に入っている、トランプ米政権は日本にさらなる安保上の役割拡大を求めている。世論の理解も深まり、かつて「タブー」視されていた分野で踏み込んだ議論も進む。
沖縄本島中部の米軍基地キャンプ・コートニーにある在沖縄米海兵隊の司令部。陸上自衛隊と米海兵隊はここを指揮拠点に9月25日まで5回目の離島防衛訓練「レゾリュート・ドラゴン(不屈の竜)」に取り組んでいる。ターナー米第3海兵遠征軍司令官は11日の訓練開始式で「私たちが紛争時に共同対処できることを示す兵器だ」と自衛隊のミサイルに触れた。米軍の中距離ミサイル発射装置「タイフォン」や新型ミサイル「ネメシス」と同列に「タイプ12」に言及した。
「タイプ12」は陸自が「12(ヒトニ)式地帯艦誘導弾」と呼ぶ三菱重工業が開発する純国産の巡航ミサイルを指す。防衛省は25年度中に射程を1000キロメートル超の伸ばす改良型を本格配備する。18年に計画が固まり、旧ピッチで開発した。自衛隊はこれまで射程数百キロメートルのミサイルしか持ってこなかった。22年に「反撃能力」の保有を初めて宣言したことが転機となった。
中国や北朝鮮は弾道ミサイルや極超音速で飛ぶ巡航ミサイルを持つ。もし短い射程のミサイルしかなければ反撃するにも相手の発射拠点に接近しなければならない。遠くから精密に打撃できる能力を実際に備えることで反撃の意思を示す必要があった。
東アジアの軍事バランスは安保関連法成立後も変化している。防衛白書によると中国は近代型の駆逐艦やフリゲートを10年間でほぼ倍増させ、94隻保有している。日本の51隻をしのぐ。戦闘機も10年前のほぼ倍の1668機を運用する。地上発射型ミサイル発射機の数も700機を超え、10年前の400基から大幅に増えた。なかでも日本全域やグアムを射程に収める中距離弾道ミサイル(IRBM)の増備がめざましい。
これに向き合う日米は相互に「守りあう」関係を整えつつある。ロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約による長年の規制の結果、米国は反撃に必要なIRBM級のミサイルが手薄になっている。日本の「12式」は米国にとっても対中抑止力の重要なパーツになりうる。
安保関連法に基づき日本の存立が脅かされる「存立危機事態」と認定すれば、同盟国の米軍が攻撃を受けた際に反撃能力を行使できる。米軍は24年、長射程の巡航ミサイルを発射できる「タイフォン」をフィリピンに配備し、今回の訓練にも持ち込んだ。通常兵器だけでなく、核の脅威も高まっている。ストックホルム国際平和研究所によると、中国の核弾頭の保有数は10年前の200発台から25年は600発に達したもようだ。厳しい制裁下で核開発を続ける北朝鮮も核弾頭を既に保有しているとされる。日本側は核抑止を米国に頼っている。日米の外相と防衛相が出席する拡大抑止の閣僚会合を新設するなど、日米協力の強化に積極的に動く。
安保関連法が成立した10年前には防衛力向上を巡る議論はなおタブーとみられていた。法整備を推進した当時の安倍晋三首相も反撃能力に関しては「米国に依存している」といった国会答弁に終始していた。14年に閣議決定した集団自衛権容認への世論の反発は強く、安保関連法の成立時は連日、国会周辺で反対のデモが続いた。日本経済新聞の15年9月の世論調査は、安保関連法の国会成立を「評価しない」との回答が54%と過半数を占めた。
いまでは世論の風向きも一変している。22年12月の時点で防衛力強化を「支持する」との回答は55%で「支持しない」の36%を上回った。20年時点で反対が50%超えていた反撃能力についても22年12月には3割まで減り、賛成が6割に達した。安保関連法の成立後も日本の安保環境は一段と厳しさを増している。いまや国会論戦でも反撃能力や核抑止力は俎上(そじょう)にのる。安保を米国任せから日本自身の課題として捉える新たな時代に入った。
(参考 日経新聞 令和7年9月19日より)
防衛力、タブーなき議論
