米就労ビザ「H−1B」で混乱

米ホワイトハウスは9月22日までに、高度な外国人技術者向けの就労ビザ(査証)「H−1B」に10万ドル(約1480万円)の手数料を課す大統領令に関し、新規の申請だけに適用されるとの方針を明確にした。テクノロジー企業などは新規採用への影響が避けられないものの、政権の反発を恐れて目立った反論を控えている。

レビット米大統領報道官は20日、10万ドルの手数料は新規の申請時のみ必要で、次回の抽選サイクルで初めて導入されるとX(旧ツイッター)で説明した。現在発行しているビザや更新には必要ない。年会費でなく、申請時に1回限りの適用だと修正した。

トランプ米大統領が大統領令に署名した19日、ラトニック米商務長官が毎年必要だと受け取れるような説明をしたことで、テック企業や関係者の間で混乱が広がった。米国への再入国時に10万ドルが必要になると懸念したためだ。

米ブルームバーグ通信によると、マイクロソフトなど米テック大手はH−1Bビザを持つ従業員に米国外への渡航を控えるように注意喚起した。米国に再入国できなくなると心配したインド人が空港で動揺する姿も現地紙が伝えた。こうした事態を受け、レビット氏が20日に「すでにH−1Bを保有している人は通常通り出入国できる」と強調し、事態はいったん沈静化した。

米国で就職を望む留学生やビザ保有者の不安は解消されていない。マイクロソフトは従業員に再入国できると修正しつつも「多少の混乱が生じる可能性はある」と通知したと報じられた。H−1Bビザは米国のテックやコンサルティング企業などが、米国で専門的な外国人社員を採用する際に活用している。特に海外の優秀なエンジニアは米国の技術革新を支えており、米起業家イーロン・マスク氏は同ビザの制限に反発してきた経緯がある。

とはいえ、トランプ氏が大統領令に署名した19日以降、米テック企業から声高に反対する意見は出ていない。米アマゾン・ドット・コム、米アップル、米メタは日本経済新聞の問い合わせに回答しなかった。マイクロソフトも回答を控えた。一部では賛成する声もある。米動画配信大手ネットフリックスの共同創業者、リード・ヘイスティングス氏は「素晴らしい解決策だ。H−1Bビザは非常に価値が高い仕事のみに使われるようになり、抽選の必要がなくなり、その仕事の確実性が高まる」とXに投稿した。同氏は民主党の大口献金者として知られる。

シリコンバレーに拠点を置く弁護士は「ビッグテックの労働力はH−1Bの人材だけに依存しているわけではない。むしろ手数料を払えないスタートアップや中堅企業への影響が深刻だ」と指摘する。H−1Bビザの発給上限は原則年間8万5000件で、企業がスポンサーとなって申請して抽選で割り当てられる。有効期間は3年で1度更新できる。その間に永住権取得を目指す人は多い。2025年度は47万人超が応募し、需要過多となっている。

米国市民権・移民局(USCIS)によると、同ビザの申請が承認された人の国別割合はインドが7割中国が1割だ。企業別の承認件数ではアマゾン、インドのタタ系ITサービス会社、マイクロソフトなどが上位になっている。インドのIT企業にも影響がでる。インドで開発したソフトウェアや人材を米国企業に派遣し、システム開発や保守を担う事業モデルで成長してきたためだ。インド企業の業界団体は「事業継続に支障が生じる可能性がある」と警告する。流動化する高度人材を確保しようとする動きも出始めた。英紙フィナンシャルタイムズ(FT)は英政府が世界トップクラスの高度な科学者やデジタル人材などへのビザ手数料の一部を廃止することを検討していると伝えた。

(参考 日経新聞 令和7年9月24日より)