米で「バイオ薬版TSMC」へ(富士フイルム)

富士フイルムは米東部時間9月24日、米国でバイオ医薬品工場の開所式を開いた。製薬会社から生産を受託する拠点としては米国で最大級となる。米政権が医薬品生産の国内回帰を促すなか、富士フイルムは積極投資で先手を打ち、半導体では欠かせない存在となった台湾積体電路製造(TSMC)の医薬版を目指す。

米南部ノースカロライナ州ホーリースプリングスで新工場を公開した。長い廊下の東西に建屋があり、東側には医薬品の培養や細胞を増やす栄養供給に使うタンクが大小約200基設けられ、年内の稼働へ向け準備が進められていた。西側でも28年に稼働させるべく同等の生産設備を建設中だ。培養タンクは高さが3フロアにまたがる。28年までに稼働する16基で年間最大5000万回分のバイオ医薬品を製造できる。飯田取締役は「医薬品大手のブロックバスター(売上高が10億ドルを超える医薬品)を量産していく」と述べた。

この工場はバイオ医薬品の開発・製造受託(CDMO)を担う。莫大な初期投資や開発費が必要なバイオ医薬品では水平分業化が進み、創薬に打ち込む製薬会社から依頼を受けて生産に特化する企業が増えている。

富士フイルムは新工場に総額32億ドル(約4800億円)を投じる。25年稼働分の8基のタンクはすでに完売状態。米リジェネロン・ファーマシューティカルズと10年で30億ドル、米ジョンソン・エンド・ジョンソンとは10年で20億ドルの契約を結んだ。追加投資のタンク8基についても4基相当分はベルギーのバイオ製薬アルジェニクスなどの顧客が決まっている。

強い引き合いの背景には政治情勢がある。バイオ医薬品は重要物資として、米国政府が生産の国内回帰を急ぐ。バイデン前政権下から中国を調達網から外す議論が進み、製薬大手は中国系の受託会社を頼みにくい。トランプ米大統領は詳細を明らかにしていないものの、医薬品への大幅な関税引き上げを計画。製薬大手は米国内の生産体制を拡充している。

富士フイルムは地政学リスクが現在のように顕在化する前から米国進出を決めていた。中核の「抗体医薬」のCDMOでは、競合するスイス・ロンザや韓国のサムスンバイオロジクスに先んじて米国に足場を築いた。バイオ薬工場は立ち上げに5年以上かかるとされる。ロンザは24年にスイス・ロシュグループから米国内の製薬工場を12億ドルで買収したが、設備更新などに時間がかかる。サムスンバイオも韓国に生産拠点が集中する。富士フイルムは当面、先行者利益を享受できる。

同じく重要物資の半導体業界では、微細化などで生産が難しくなりTSMCのような受託生産企業なしでは成り立たなくなった。富士フイルムはバイオ医薬品でも製造会社の価値が高まると予測し、11年の参入からすでに累計で1兆円超の投資を決めた。富士フイルムの後藤社長はかねて「バイオ医薬のTSMCを目指す」と話す。同社がTSMCのような存在になるには顧客や技術の動向を先読みし、厳しい投資競争を勝ち抜く必要がある。

(参考 日経新聞 令和7年9月26日より)