中国でアリババ集団の創業者、馬雲(ジャック・マー)氏の復権が取り沙汰されている。米国との対立を見据える習近平(シー・ジンピン)国家主席が半導体と人工知能(AI)への傾斜を深め、マー氏への態度を軟化した。アリババはじめ中国テック株に世界のマネーが向かう現状は、中国はトランプ米政権に一方的に圧倒されるシナリオの修正を示唆する。
16日夜、国営中央テレビ(CCTV)のメインニュース番組に、国内外の投資家がくぎ付けになった。中国西部・青海省のデータセンターを訪れた李強(リー・チャン)首相に、アリババ集団が全額出資する半導体開発会社「平頭哥」のAI半導体の紹介画面が映し出された。米エヌビディアの台中輸出モデルと同等の性能と書かれた資料が映され、説明を受けた李強氏はうなずいた。通信大手の中国聯合網絡通信(チャイナユニコム)がアリババクラウドを採用しているとも紹介された。前後してSNSにマー氏が同社幹部とバーで歓談する動画が拡散した。MAGA(米国を再び偉大に)をもじった「Make Alibaba Great Again」というフレーズも流布する。
17日には中国当局がテック大手にエヌビディア製の半導体購入を禁止したと報じられた。19日に米中首脳協議を控えていたタイミングだ。周氏は自国のテック企業への締め付けを緩めつつあり、アリババとマー氏は圧迫の対象から外れたことが鮮明になった。
マー氏が20年秋に表舞台から去ったのには複数の理由がある。「優れたイノベーションは規制を恐れないが、古くさい規制は恐れる」といった政府批判に加え、習氏と対立していた元国家主席、江沢民(ジアン・ズォーミン)氏の派閥との関係も噂になった。さらにはアリババ傘下の金融会社、アント・グループの拡大が習氏をいらだたせた。20年11月、習氏は「資本の無秩序な拡大を防止する」との理由でアントの上場を差し止めた。
アントはスマホを通じ2.1兆元(約44兆円)の小口融資を積み上げたが、信用情報はアントが一手に握り、実際の貸し出しは地銀などが受け持った。仮に債務不履行が続発した場合のリスクは金融システムに向かう。マー氏は中国を離れて日本や欧州に滞在し、事実上の謹慎生活に入った。アントの支配権を手放し、アリババは3800億元をAIに投じる計画を策定した。アリババが完全に屈服したと見た習氏は2月、民間企業座談会にマー氏を呼んだ。座談会に呼ばれた31社のうち、アリババを含む6社が浙江省に本社を置く。かつて同省を拠点とする温州商人が全国にわたるネットワークを構築し、起業も盛んな土地柄だ。
座談会はマー氏の活動再開を認め、民間重視に転換したサインと受け止められた。座談会前の1月の比較でアリババ株は2倍近くに急騰した。みずほ証券の王申申シニア中国株式ストラテジストは今夏、適格外国機関投資家(QFII)を通じて中国株を買い増している複数の機関投資家と面談した。投資家は「習氏が民間のイノベーションをフル活用するならば米国との対立に持ちこたえるかもしれない」と口をそろえたという。
中国企業は技術力を高めている。かつて通信機器大手の中興通訊(ZTE)は米国の輸出規制を受け経営破綻の瀬戸際に追いやられた。華為技術(ファーウェイ)も落ち込んだ売上高を取り戻すのに4年の月日を要した。だが現在は米国がいかに規制を強化しても、経営難に陥るテック企業は見当たらない。
買わざるリスクを感じる海外投資家は多い。米証券取引委員会(SEC)によるとブルークレストやDEショーなど著名ヘッジファンドが25年4〜6月期にアリババ株を買い増した。9月末は著名投資家キャシー・ウッド氏が率いる米投資会社の株式取得も明らかになった。
半導体産業の成長は習氏が自信を深める一因だ。中芯国際集成電路製造(SMIC)の時価総額は10兆円を上回るまで成長した。AI半導体の中科寒武紀科技(カンブリコン)、製造装置の北方華創科集団、センサーの豪威集成電路など一定の供給網を備えた。中国製造2025、一帯一路、共同富裕。習氏の経済政策はスローガンに彩られてきた。様々な主役企業が現れ、弾圧を受けた企業も存在した。マー氏への方針転換を機に、中国テックは2010年代半ばの全盛期に近い輝きを取り戻す可能性がある。もっとも、その隆盛が持続するかは習氏の一存次第だ。
(参考 日経新聞 令和7年9月27日より)
中国株高、馬雲氏復権の影
