さいたま市内の介護付き有料老人ホームに入居する島田さん(74)は月1〜2回、SOMPOケア(東京・品川)の「プライベートサービス」を利用する。スタッフに付き合ってもらい、日用品の買い物や銀行での通帳記帳に出かける。1年ほど前に施設に入ったときは、自力歩行や入浴が困難になってくる「要介護2」の認定だった。腎臓の病気の影響で足がむくみ、エレベーターで移動するのも苦労した。外出を重ねるうちに歩行器や介助がなくても歩けるようになり、比較的軽度な「要支援2」に回復した。島田さんは「ここまで元気になったのはサービスのおかげ」と笑顔をみせる。
訪問介護で保険の対象となるのは①食事や排泄の介助といった身体介護②掃除や洗濯などの家事援助③通院時の乗車・降車援助などだ。日常生活の支援の範囲を超える草むしりやペットの世話、利用者の家族のための家事は対応しない。
保険対象のサービスで利用者のニーズとずれが生じることもある。介護士派遣を保険外で提供するイチロウ(東京・渋谷)の水野代表は「保険内サービスは提供時間が1時間程度と短く、早朝や深夜の時間帯も対応しにくい」と話す。同社の最低利用時間は2時間。午前9時から午後6時までは1時間あたり3520円で排せつ・入浴の介助や家事、通院の付き添いを行う。午後6時から午前9時までも4224円で同様の支援をする。
経済産業省によると、公的保険外の介護産業の市場規模は50年に16兆9000億円と20年の6兆4000億円から約2.6倍に拡大する。要因の一つは独居高齢者の増加だ。内閣府によると一人暮らしの65歳以上は50年に約1084万人と20年(672万人)から61%増える。身の回りの用事を誰かに頼みたいというニーズは拡大する。もう一つはビジネスケアラーの増加だ。経産省の推計では、家族を介護する人は30年に約833万人となる。このうち仕事をしながらの人は約318万人と4割近くを占める。
東京都内在住で教員として働く女性もビジネスケアラーだ。父(89)は女性の自宅から徒歩10分ほどの場所で一人暮らしをしている。健康に問題はなく要支援や要介護の認定は受けていないが、家全体の掃除や布団干しは厳しい。女性が顔を出せるのは週2回ほど。代わってダスキンのスタッグに週2回、1回2時間きてもらう。利用費は月10万円程度だ。女性は「命を預かってもらっていることも考えると必要な出費だ」と話す。
高齢期の資金では、19年の「老後2000万円問題」の記憶が強い。夫65歳、妻60歳以上の無職世帯が主に年金で生活する場合、30年間で約2000万円が不足するという資産を金融庁の金融審議会が発表した。根拠としたのは総務省の家計調査だ。平均支出は税金や社会保険料などの非消費支出を合わせて月26万3717円、収入は20万9198円で5万4519円の不足になるとした。最新の24年調査では月の赤字額が3万4400円に縮小し、30年間の不足額は約1240万円になる。
保険外サービスの利用がかさめば支出は増す。ファイナンシャルプランナーの黒田氏によると、家事代行の場合、民間企業は1時間3000〜5000円、地域の社会福祉協議会やシルバー人材センターなら1000円程度が相場だ。掃除、洗濯、病院の送迎など標準的な利用なら月4万円ほどかかる。30年間で1400万円を超える。
年金収入は期待しにくい。厚生労働省が24年7月に公表した公的年金の財政検証によると、今後数十年にわたって経済成長が実質ゼロ%程度で推移すると、夫婦2人のモデル世帯で国民共通の基礎年金の給付水準が約30年後に3割低下する。黒田氏は「介護期間が長くなれば出費もかさむ。家族の負担を減らすために不可欠なのか、それとも自分自身の生活を豊かにするためのものなのかを考えて、いくらまでかけられるか慎重に判断すべきだ」と指摘する。
(参考 日経新聞 令和7年9月29日より)
老後の家事・外出支援「2000万円」は不足?
