学び直しの休暇は広がるか

ヒアリング

労働者がリスキリング(学び直し)のために連続30日以上の無給休暇を取得した場合に賃金の5〜8割を受け取れる「教育訓練休暇給付金」の制度が10月に始まった。労働者の学びを後押しすることが期待される。給付金の利用は就業規則などで休暇制度が規定されていることが前提となるが、現状では休暇を導入している企業はごく一部に限られる。普及には企業が協力する姿勢が不可欠だ。

「新しい給付金を利用したい社員がいたら就業規則の改定を検討する」人材情報サービスのアトラエは2023年1月にリスキリングのために有給の休暇を最長6カ月間取れる「チャーリー制度」を導入した。人事担当者は「社員の成長を支援したいが、会社がお金を出し、代わりの人員を補って自己啓発してもらうのは実際にはハードルが高い」と話す。これまで取得したのはオーストラリアに留学した1人で、午後はリモートで仕事をしていた。

教育訓練休暇給付金は雇用保険法の改正で新設された。雇用保険に5年以上加入していた期間があるなど一定の条件を満たす正社員やパートなどの労働者が、連続した30日以上の無給の教育訓練休暇を取得する場合、休暇前の賃金の5〜8割の額の給付金を受けられる。雇用保険の加入期間に応じて、最大150日分が支給される。対象となる教育訓練は、資格取得講座から大学・大学院、語学留学など様々だ。厚生労働相が指定した講座で学んだ場合に費用の一部を受け取れる教育訓練給付金との併用もできる。

労働者が受給するためには、企業が教育訓練休暇の制度を就業規則などで規定している必要がある。一方、業務命令で資格を取得させるのには活用できない。厚生労働省雇用保険課は「人的資本経営の考え方が広がるとともに、労働者個人が主体的に能力開発する事も重要になってきた。企業だけで支援するには限界がある。生活の不安を軽減し、学びに専念できる環境を整えたい」と説明する。

JR東日本は22年4月に幅広い用途で最長2年間休める無給の「キャリアデザイン休職制度」を設けた。社員4万人のうち200人程度が取得し、リスキリング目的も多いという。担当者は「無給のために生活費の問題から休暇を利用できなかった人がいるかもしれない。給付金によって諦めていた社員も挑戦できるようになるとよい」と話す。

人工知能(AI)の発展や人手不足などを背景にリスキリングが注目される一方、休暇制度を設けている企業は少ない。厚労省の24年度能力開発基本調査によると、教育訓練休暇制度を導入している企業は7.5%で、導入を予定している企業(9.1%)と合わせても2割に満たない。導入予定はないと答えた企業が88.4%を占めた。導入予定がない理由(複数回答)は「代替要員の確保が困難」(46.3%)が最多で、「メリットを感じない」(22.3%)、「有給休暇とした場合、コスト負担が生じる」(13.1%)も一定数あった。

安倍弁護士は「人的資本経営に取り組んでいるのは、現時点では投資家の目を意識する一部の大手企業などに限られている。スキルアップを支援しても転職してしまうのではないかと懸念する企業もある」と代弁する。給付金が企業の取り組みを促すかは未知数だが、早稲田大学の水町教授は「リスキリングのための休暇制度を導入しないと、人材獲得競争で不利になる可能性がある」と指摘する。

(参考 日経新聞 令和7年10月6日より)