トクリュウ捜査、中枢に的

「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」による詐欺犯罪に対し、警察は捜査の照準を中心メンバーに絞り始めた。手口の情報を全国で共有して類似の被害の洗い出し、人海戦術で犯罪収益の流れを追跡・同一グループが約8億円を詐取した疑いを突き止めた。組織力を集中させる手法はトクリュウ捜査のモデルケースになり得る。

警視庁捜査2課などは9月10日、職業不詳の樋口拓也容疑者を詐欺容疑で再逮捕したと発表した。再逮捕容疑は2023年3〜6月ごろ、被害者6人に架空のサイト利用料金を請求し約9千万円をだまし取った疑い。樋口容疑者はトクリュウが絡む犯罪収益のマネーロンダリング(資金洗浄)を主導したとされる。「ルフィ」などと名乗る支持役による広域強盗事件の被害金の管理にも関与したとみられる。捜査関係者は「トクリュウの中心メンバーと言える」とみる。
容疑者らは23年に全国で発生した相当数の特殊詐欺事件に関与した疑いがあった。詐欺事件では一般的に、被害者の居住地を管轄する警察が捜査を担う。ただ収集できている情報には各警察でばらつきがあり、全容はつかめていなかった。

このため警視庁などは架空のサイト利用料を求める。特定の通信事業者をかたる。といった容疑者グループの情報を全国の警察に照会。各警察に寄せられた被害情報の中から、手口が類似する約300件を洗い出した。そのうえで捜査員約20人を加え、警察庁サイバー特捜部の協力を得て詐取された資金の流れを追跡した。このうち少なくとも25都府県の約180件(被害総額約8億円)で、容疑者らが管理する暗号資産(仮想通貨)口座に入った疑いが強いことを突き止めた。

警察はこれまで、トクリュウの中枢へ思うように迫れていない。警察が24年に摘発したトクリュウとみられる容疑者1万105人のうち、多くは事件ごとに入れ替えられる実行役だ。摘発できた「主犯・指示役」は全体の1割にとどまる。東京都立大の星教授は「トクリュウは秘匿性の高い通信アプリを使い物証を残さず、犯罪収益を高速かつ多数回移転させるなどの手口を用いる」と指摘。「警察は地域ごとの捜査が基本であり、現状必ずしも中枢に効果的な打撃を与えられているとは言いがたい」とみる。

トクリュウの中心メンバーを集中的に捜査して重い刑事責任を追及できれば、組織の弱体化が期待できる。警察幹部は「全国の警察が持つデータとマンパワーを効果的に活用できるかが、組織壊滅の成否を握る」と強調する。
集中的な捜査を推進するため組織も再編する。10月、警察庁に「匿名・流動型犯罪グループ情報分析室(仮称)」を設置し、全国からトクリュウの関連情報を集約する。首謀者や指示役とみられる人物を「取り締まりターゲット」として選定する。

情報分析には生成AI(人工知能)も活用する方針だ。入力された情報を基に、中心メンバーや実行役らを巡る相関図を自動で作成する機能を想定している。捜査の拠点として警視庁には「匿名・流動型犯罪グループ対策本部(トクリュウ本部)」を置く。同庁の捜査員140人に加え、全国から26年4月までに計200人を集める。中心メンバー摘発に向けた戦略を立案する「司令塔」の役割を担う。警察庁がSNSで実行役を集め離合集散を繰り返す犯罪グループを「匿名・流動型犯罪グループ」と初めて分類したのは23年7月だった。SNSの普及に乗じて勢力を急速に拡大させた。

トクリュウの関与が疑われる特殊詐欺の被害は25年1〜6月に597億円3千万円(暫定値)に上り、通年で過去最悪の24年(718億8千万円)を超えるペースで推移する。SNS型投資・ロマンス詐欺も25年上半期に590億8千万円(暫定値)の被害があった。トクリュウが絡む凶悪な強盗事件も後を絶たない。警察庁が24年10月に実施した調査ではここ10年で日本の治安が「悪くなった」「どちらかといえば悪くなった」とした回答は76.6%を占めた。市民の体感治安が悪化する要因になっている。

星教授は今回の捜査について「地域を越えた情報共有と捜査資源の集中を効率的に進め、トクリュウ対策のモデルケースといえる」と評価。「組織再編により捜査の環境はより整う。再編の効果が発揮できるように対策を迅速に進めるべきだ」とした。

(参考 日経新聞 令和7年9月11日)