一度信じると脱出は難しく
2000年時代に「web2.0」と呼ばれる概念が提唱された。インターネット上で多くの人々が情報発信できるようになったことから、新しいウェブの時代が始まったといわれていたのである。
現在、実際に多くの人々が自らの情報を発信する環境が整い、ウェブは様々な人々が発信する情報にあふれている。我々は以前よりもはるかに多くの情報に接することが可能となった。
一方で、2010年代にはフェイクニュースと呼ばれる偽情報の存在が問題視されるようになった。真実よりも個人的な心情へのアピールが重視されるようになり、10年代半ばからポストトゥルース(Post Truth)の時代に入ったとも言われていた。
それから10年が経過し、真実を見極めることがますます困難になっている。そのような中でどのような情報を信頼すればよいのか。
人々は情報を「理解できる物語」を求めるようになっている。受け入れられるナラティブ(物語)を求め、ナラティブによって情報を信頼するかどうか決定するようになった。
その中でも陰謀論はナラティブ的特性をもつ事例の一つである。何をもって陰謀論とするかは難しい問題ではあるが、一般に陰謀論と呼ばれるものの多くは専門知識がなくても理解しやすい構造をしており、時には人を魅了するナラティブで構成されている。
このような陰謀論はどのように広がっていくのだろうか。実際に多くの陰謀論が拡散することがあるX(旧ツイッター)のデータからその特徴を見てみよう。一般的にはXは広大な空間である一方で、フォロワー関係によって情報の拡散は制限され、一定のコミュニティーが構成されることがよく知られる。
無数に存在するコミュニティーの中に、陰謀論を信じるユーザーによるものが存在する。そこでは様々な陰謀論が飛び交う。我々の調査では、X上の特定の陰謀論を拡散したユーザーは、別の陰謀論を拡散する割合が、そうではないユーザーと比較して高いことが明らかになっている。
このようなコミュニティーないではエコーチャンバーという現象が生じていると考えれる。同じ価値観を持つ人々が集まることで、特定の考えに肯定的な情報ばかりを受けることとになり、結果として信念を強化することになる現象である。
陰謀論を信じる人のコミュニティー内では、様々な陰謀論を肯定的に扱う言説が否定されることなく話され、結果としてユーザーが多くの陰謀論へ接することになると推測される。では、この陰謀論コミュニティーから抜け出すことは可能だろうか。データから見る限り、陰謀論に一度はまった人がそこから脱出することはほぼできない。我々がソーシャルメディア上のデータを分析すると陰謀論的言説を信じるコミュニティーに属する人、その後コミュニティーから抜け出した人数はゼロだったという例が存在する。
一般に陰謀論から脱出できる可能性は低く、家族でも陰謀論を信じた人を説得することは難しいといわれる。一度所属すると抜け出すのは難しいといわれる。そもそも陰謀論に近づかないようにすることが重要であると考えられる。我々の身近には、陰謀論の入り口となる様々なものが存在している。例えばスピリチュアルなものや、自然食品のような一見害のなさそうなものが、権威や化学不信につながり陰謀論の入り口となることがある。これらの情報が悪いということはないが、それが陰謀論の入り口になっていることを情報として知っといてもよいのではないか。
また現在では、動画サイトが陰謀論の入り口となっている。動画サイトでは利用者が見たくなるような動画を推薦される。この推薦システムは、自分では気づかなかった多くの動画を提供し、また不必要な動画を見る必要がなくなり、現代の情報取得には必要不可欠なシステムといえよう。
しかしながら、推薦しすてむは基本的に我々が見るであろう動画を推薦する。我々は多様な動画が存在するにもかかわらず、好みに合った一部の動画しか接することができなくなっているともいえる。フィルターバブルという言葉も最近よく使われるようになってきたが、人工知能(AI)によって動画が推薦され、我々はAIが作り出すフィルターの泡の中でしか情報をみることができない。
私も陰謀論に関する動画を視聴することがあるが、あくまで割り切ってみることが大事だと考える。動画の推薦にどうしても出てきてしまい、自分の意思の外で、選択の幅を狭めているのかもしれない。動画推薦もし好に合わせて表示されることを念頭に置きながら、動画を楽しみたいものである。
(参考 日経新聞 令和7年9月9日より)
広がる陰謀論
