早起きは三文の「得」?

「早起きは三文の徳」は「健康にもよく、そのほか何かとよいことがあるもの」と辞書に書かれている。日銀の貨幣博物館によると、江戸時代のまんじゅう1個の価格が3文。直近の小売物価統計調査ではまんじゅう100グラムが145円なので決して高くはないが、続ければよいことがありそうだ。

7月から8月にかけて約2週間、日の出前の午前4時に起床した。体調への影響を調べるためスマートウォッチを着用し、睡眠やストレスの度合いを計った。
1日目。起きられるか不安になり午前3時に目覚めた。家族の協力を得て早めに出勤。この日の最高気温は36度だったが朝が涼しく、人も少ないので歩いていても気持ちがよい。この日は夜まで元気に動くことができた。使える時間が増え、料理の作り置きをしたり本を読んだりするなど、生活にゆとりが生まれた。

ただ翌日以降、徐々に陰りが。ストレスチェックアプリでは「睡眠に注意」の警告があり、午後には頻繁にあくびが出る。始業を早めた分、取材がない日は早めに切り上げることにした。保育園の迎え時間が早まり夕飯前にこどもと遊ぶ時間ができた。明日こそ眠くならないよう早寝を心がけるが寝付けない。

早起きしてみて、早朝から動いている人が想像よりも多いと知った。都内の60代女性は「起きたらすぐウォーキングが日課。忙しくても運動不足にならない」と笑顔だ。男性会社員は「子どもと夕食をとるため出社を早めている。朝は電車も空いていて、人がいないオフィスは集中して仕事ができる」という。
一方、仕事の都合で早起きせざる得ない人。金融業界で働く20代男性は「夜は取引先などとの会合もあり、眠い」とこぼす。早起きは仕事にどんな影響があるのだろうか。東京医科大学睡眠学講座教授の志村さんは「労働生産性の点で、早起きは全く得をしない」という。

ヘルスケアのこどもみらいが42社8155人のビジネスパーソンの睡眠を調べたところ、睡眠不足になると労働生産性が低下し、若い人ほど影響が大きいことがわかった。早起きが得意な「朝型」と夜に強い「夜型」は、年齢と遺伝でおおむね決まる。思春期から夜型傾向が強まり20歳ごろピークに達し、以降は老化に伴い朝方化していく。体内時計も新入社員世代と50代で2時間の差がある。必要な睡眠時間も若い人ほど長い。

睡眠時間を確保するため早寝を検討する人も多い。ただ寝付ける時間は決まっており、普段より就寝時間を2〜3時間早めても寝付きにくく、早起きは睡眠不足につながるという。「朝起きるのがつらいのは怠けではない。若い人に早起きを強要する出社は慢性的な寝不足を招き、発がんリスクや死亡率も上がる」

期間中の貴社の労働生産性を算出してみた。睡眠時間は平均4時間37分と5時間未満。調査結果に当てはめれば労働生産性は2%の低下だ。日本の給与所得者(30代前半女性)の平均賃金で換算すると、年約7万円の損失。年240日働くとすると1日約287円。3文字以上の「損」かもしれない。
とはいえ、早起きが必要なときもある。志村さんは「量の確保が無理なら寝る前のスマホ利用を控えるなど質を意識するとよい」と話す。午後3時までに10分ほど昼寝をするのも労働生産性アップには効果があるという。

質を見直し、午後の眠気は緩和された。約2週間続けて挑戦が終了。早起きに慣れたつもりだが、慢性的な睡眠不足でスマートウォッチが計測したストレス指数は平常時よりも上がったままだった。改めて気づいたのは早寝の難しさだ。日の出の早い夏場は、目覚ましがあれば早起きできた。一方、早寝は家族の生活リズムに合わせると、思うようにできなかった。

取材で会った朝時間を有効活用する人たちは十分な睡眠時間を確保していた。4歳の子を持つ女性会社員(34)は「子どもと一緒に午後9時には床につく」と言い、その分午前4時半に起きて英語の勉強時間を捻出。早寝早起き生活を続けるには、家族の家事への協力と睡眠環境の整備がカギになる。
早起きにしても時間の活用法には制約があった。保育園の預け時間は決まっており出社を早めるには限界がある。ただ朝の時間が増えたことで、せかされる感覚は減り、子どもにいつも以上に穏やかに向き合えた。睡眠時間を確保した上で、自分に適した早起きができれば生活は豊かになりそうだ。

(参考 日経新聞 令和7年9月13日より)