葬儀会社が遺体を取り違えて火葬するトラブルが相次いでいる。死亡数が増えているうえ、葬儀を行わず遺体を火葬する「直葬」が増加し、葬儀会社が一時的に保管する遺体が増えたことなどが背景にある。厚生労働省は近く遺体を取り扱う事業者向けのガイドラインをまとめる方針だ。
今年7月、葬儀会社「ティア」(名古屋市)が提携する同市内の安置施設で遺体の取り違えが起きていたことが判明した。発生は1月。同社の葬儀場に遺体を移す際、提携企業の従業員が名字が同じ別の遺体を誤って運び出したことが原因だった。遺体の足首には氏名を記したタグが付けてあったが、従業員はフルネームでの確認を怠った。引き渡しの際、ティアの従業員もタグを確認しなかった。火葬後、遺留品の中に見覚えのない衣類などが見つかり、遺族が別人と気付いたという。同社は「多大なご心配をおかけした」と遺族に謝罪した。遺体は、遺族が同席する中、改めて火葬された。誤って火葬された遺体には身寄りがなかった。
近年、こうした事例が後を絶たない。同社では2024年3月にも埼玉県越谷市の葬儀場で2人の遺体を取り違えて出棺するミスがあった。別人の遺族が立ち会う中で火葬された際、見覚えのない遺留品があり、取り違えが判明した。
アルファクラブ武蔵野(さいたま市)が運営する葬儀場「さがみ典礼」でも22年までに3件の取り違えがあった。いずれも名札の確認不足など職員のミスが原因だった。なぜ、遺体の取り違えが相次ぐのか。公益社団法人「全日本墓園協会」(東京・千代田)の横田主管研究員は「直接の原因はヒューマンエラーだが、高齢化に伴い死亡数が増加し、弔い方が変化したことも影響している」と話す。厚労省の人口動態調査によると、24年の死亡数は160万人に上り、20年で1.6倍に増えた。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、年間死亡者数は40年に166万人に達するまで増え続ける見通しだ。
火葬場が足りず、順番待ちが生じる「火葬待ち」が各地で発生。新型コロナウィルス禍を機に直葬も増えており、葬儀会社が一時保管する遺体の数が年々増加している。ティアが直営する葬儀場での24年9月期の葬儀件数は1万5424件に上り、19年9月期より41%増えた。安置施設には同時に最大170体分を収容できるが、12〜2月の繁忙期ではそれでも足りず、提携企業の安置施設を活用しているという。
全日本墓園協会が23年に公表した火葬場などへの調査では火葬待ちの最大日数は「6〜8日」が約3割で最も多かった。業界団体の全日本葬祭業協同組合連合会(全葬連)の松本専務理事は「死者が増えれば、トラブルも増えていく可能性がある」と懸念する。アルファクラブ武蔵野は23年にQRコードや無線タグを使った遺体の管理システムを導入。予定時間外にひつぎが安置施設から搬出された場合、警告灯が点灯する仕組みに改め、管理体制を強化した。ティアも23年にQRコードを活用したシステムを導入したが、提携企業の安置施設にはシステム導入されていなかった。
墓地埋葬法は遺体について「死亡後24時間は火葬や埋葬をしてはならない」と定めており、遺体の管理や衛生面に関する公的なルールはない。葬儀会社を直接所管する省庁もなく、全葬連などの業界団体に加盟する事業者も一部にとどまるのが現状だ。海外ではフランスが葬儀会社の経営を許可制にしているほか、韓国も申告制を採用している。全日本墓園協会の横田主管研究員は「尊厳ある最期を守るためには、葬儀会社を登録制などにしてルールを整備し、トラブル事例などを共有する仕組みを整えるべきだ」と語る。
厚労省は近く遺体を取り扱う事業者向けに、遺体の管理や衛生面に関するガイドラインを作成する方針だ。同省生活衛生課は全国の業者が「ガイドラインを順守することが望ましい」としている。
(参考 日経新聞 令和7年9月20日より)
葬儀会社 遺体取り違え頻発
