「一発から習慣へ 変わる栄養ドリンク」というPR会社の情報リリースのフレーズが目を引いた。一発と言えば、大正製薬の「リポビタンD」のキャッチフレーズ「ファイト一発」のこと。疲労時に飲用し、最後の頑張りを一押しする効果を訴えてきた名文句だ。
これに対して習慣とは、日々の疲れに対して自らを癒すための消費習慣づくりを訴えているわけだ。「働き方改革」などと言われて久しいが、その分のしわ寄せを受けたり、デジタル化で連絡や指示が増えたり、部下や上司とのコミュニケーションがうまくいかなかったり、ともろもろ。昔からそんな悩みがあったが、今はSNSで共有されまくる。やるせない怒りのSNS的蓄積。最近では女性を中心にそんな人々の声を拡散する#(ハッシュタグ)が話題に上る。「#限界OL」だ。仕事でも精神的にも肉体的にも追い詰められたOL(オフィスレディ)を意味しており、最近では漫画「限界OL霧切ギリ子」の人気で一気に知名度が上がった。
「あるある」の不安や不満をすくい取った言葉は、#が付けられ、共有度が高まる。そして実際に市場や企業経営に大きなインパクトを与える。#限界OLで言えば、クエン酸市場。ここ4年で5倍近くに伸びたとの民間企業のデータもあり、まさに習慣型栄養ドリンクとして人気を集めている。
ハウス食品グループ本社の「C1000」や明治の「即効元気」などがあるが、清涼飲料が苦戦する中で、「ポッカレモン」で有名なポッカサッポロフード&ビバレッジの「キレートレモン」の成長率は際立つ。2001年の発売からほぼ四半世紀。右肩上がりの成長を続け、24年12月期には過去最高の出荷量を記録した。
清涼飲料はどちらかと言えば缶コーヒーや炭酸飲料など男性向け市場として成長してきた。しかしキレートレモンの場合、そもそも女性がメインターゲットで市場の下地がある。ここに#限界OLという「ムーブメント」で存在価値が高まったわけだ。SNSを見ても消費者の愛着度がわかる。
例えばキレートレモンシリーズの個別商品写真をアップし、「プレゼン・会議前に」「デート特別な日」「長時間ドライブ」など用途や理由を書き込んでいる。メーカーのPRを離れ、消費者が自由に発信し始めるブランドは強い。
栄養ドリンクと言えば効果・効能が重要だが、キレートレモンは「限界OL」にとってぬいぐるみのように気持ちや癒す情緒価値という側面が大きいのかもしれない。生活にまつわる#は引きも切らない。#自炊キャンセル、#コンロキャンセルなどで、これにまつわる情報で市場が盛り上がる。例えば丸大食品。企業の公式X(旧ツイッター)でソーセージを利用した青椒肉絲風レシピやカロリー爆弾ウインナーマヨ丼などを発信すると、「コンロキャンセル」レシピなどとして話題を呼ぶとともに、健康を気にしない「背徳レシピ」としても評価を受けているようだ。
かつてはやけ酒などで気を紛らわすことが多かった会社員生活だが、悩みも個別化し、ネットを駆使しながらそれぞれが独自の不満解消対策に動いている姿が浮き彫りになっている。#型消費の時代は、消費者心理に迫ることで大きなビジネスチャンスを一発生み出す可能性を秘めている。
確かにビジネスチャンスの一つになっていると筆者も感じている。共働きが当たり前の社会となり、当然、そこにはストレスが生まれて「#限界OL」などのある意味社会現象が起きている。そこに焦点を当てて、ビジネスを展開していくというのは当然であるのだろう。リポビタンD時代の筆者としてはキレートレモンに関しては興味が低く、右肩上がりの成長だということ知らなかった。筆者の仕事の仕方として前述のビジネスチャンスについては取り入れてみようとも思った大変に参考となる記事になった。
(参考 日経新聞 令和7年9月26日より)
限界OLが栄養飲料成長けん引
