月探索、中国猛追で米焦り 激しさ増す覇権争い

米航空宇宙局(NASA)は9月23日、有人宇宙船が2026年2月にも月を周回する計画を発表した。日本も参加する有人探査計画「アルテミス」は一歩前進する。ただ、当初24年の有人着陸を目指してきた米国の計画は遅れが目立つ。30年までの着陸を掲げる中国が猛追し、米国は焦りを募らせている。

友人の月探査は1961〜72年に実施した「アポロ計画」以来。今回は2022年の無人船の打ち上げに続く探査となる。NASAは宇宙飛行士4人を乗せた宇宙飛行士4人を乗せた宇宙船搭載のロケットを打ち上げる。宇宙船は10日間かけて地球と月の周りを飛んで帰還する。「私たちは歴史的な出来事を最前列から目撃しようとしている」NASA探査システム開発ミッション本部のラキエシャ・ホーキンス副長官代理は記者説明会で、月探査ミッションに期待感を示した。

今回の計画では早ければ26年2月5日にも打ち上げが可能になると明らかにした。ロケットの整備状況や月と地球の位置関係を勘案して4月までに実施する。22年の探査は、NASAが米企業と開発した大型ロケット「SLS」で宇宙船「オリオン」を無人で打ち上げ、月集会に成功した。今回の第2弾は初の有人ミッションで、10日間かけて月を周回しロケットと宇宙船の機能や、制御システムを確認する。

27年半ば以降となる次の探査で約55年ぶりに米国人2人が月に降り立つ計画を立てている。ホーキンス氏は「第2の宇宙開発競争で最初に月面に帰還することが求められている」とも述べた。その後は月を周回する有人基地「ゲートウエー」を拠点に月面を目指す。米国との取り決めで日本人宇宙飛行士も28年以降に月に向かう。

アルテミス計画は延期を繰り返してきた。トランプ米大統領は第1次政権の19年に「24年に男女の宇宙飛行士を月面に着陸させる」と宣言していた。2度延期され、すでに当初の予定から約3年ずれ込んでいる。宇宙船や着陸機の開発が遅れているためだ。第2次トランプ政権でも当初、開発の中止が提案され、その後継続する見通しになるなど混乱を生んでいる。中国は着々と開発を進めており、米上院商業委員会は9月、勢いを増す中国に対抗するための戦略を議論した。

米スペースXが開発する月着陸機は宇宙空間で燃料を補給し、月に向かう。前例もなく手順が複雑で、計画の遅れへの懸念を生んでいる。26年に宇宙空間での燃料補給試験を予定するが、無人の月着陸試験の日程は決まっていない。第1次トランプ政権でNASAの長官を務めたジム・ブライデンスタイン氏は公聴会で、中国より先にNASAが飛行士を月に送る可能性は「非常に低い」と話した。

宇宙政策に詳しい地経学研究所の梅田研究員は、計画の遅れが明らかになってきたことで「中国が米国より先に次の有人着陸を実現するシナリオが、米国の宇宙コミュニティーで、より現実味を持って認識されつつある」と分析する。NASAのショーン・ダフィー暫定長官は自身のXで中国に月面開発で後れを取ることに対し「それを許すわけにはいかない」と繰り返す。

中国は03年から月の科学探査や将来的な有人月面開発を目指す「嫦娥(じょうが)計画」を独自に進めてきた。21年には月面に国際月研究基地(ILRS)をロシアと協力して建設すると表明した。旧ソ連時代からの宇宙開発の知見を持つ強い味方を得た。24年には中国が世界で初めて月の裏側から試料を地球に持ち帰ることに成功した。30年までには中国人の月面着陸を成功させ35年にはILRSの基礎を建設する予定だ。25年8月には月面着陸船の地上試験にも成功し、打ち上げに使う大型ロケット「長征10号」の第1段エンジンの燃焼試験を終えた。

米中が基地の建設を検討している月の南極は、水の存在が指摘されている。活用できれば人類は新たな活動拠点を築ける。先に飛行士が到着すれば、月面基地の建設に最適な場所の確保や、利用に関わる国際ルール形成などで有利になる可能性が高い。月探査で培った技術は、米中がそれぞれ一番乗りを目指す有人での火星探査にも応用できる。

日本は世界情勢が不安定になる中で、日米協力を強化することが最優先だとしてアルテミス計画に参画した。梅田氏は「米国の探査計画の不透明感が増す中で、日本として月探査で何を目指すのかをあらためて明確にする必要がある」と指摘する。

(参考 日経新聞 令和7年9月25日より)