パワーカップル、まだ微増

「ともに700万円」倍増も3% 消費けん引できず

パワーカップルが少しづつ増えてきた。夫婦ともに1000万円以上稼ぐ家庭は10年で倍の11万世帯に達した。共働きの拡大に賃上げの流れが重なった結果だ。全体に占める割合はなお1%に満たない。ともに700万円以上も3%未満と、個人消費をけん引する成長エンジンになるにはまだ微力だ。国際的にみれば日本の賃金の停滞は際立っており、家計全体の購買力の底上げもかだいとなる。

東京都内の飲料メーカーで総合職として働く30代女性は会社員の夫と娘、息子の4人暮らしだ。世帯年収は約1800万円に上る。「家事はなるべく外注して、子供と過ごしたり仕事したりする時間に充てたい」と話す。保育園の送迎など家事代行関連につき10万円超を支出する。平日の夕飯は総菜宅配サービスを利用する。掃除は月2回、業者に頼んでいる。

夫も妻もたくさん働き、たくさんお金を使う。そんな家庭が増えていることは国の統計からもうかがえる。
総務省の労働力調査の詳細集計によると、夫婦ともに年収が700万円以上なのは45万世帯、このうち各1000万円以上も11万世帯と、いずれも10年前から倍増した。ニッセイ基礎研究所の久我氏は「不動産や教育、家電などの高額消費のけん引役」として注目する。

夫だけが働いて妻はもっぱら家事を担う専業主婦世帯は減少傾向が続く。24年時点では508万世帯と、共働き世帯の半分以下になった。
26年卒業予定の大学生を対象にしたマイナビの調査では、72.1%が結婚した後も共働きを希望した。この割合は8年連続で上昇している。若い世代ほど男女を問わず仕事を続ける意識が高いことがうかがえる。第一生命経済研究所の永浜氏は「互いに仕事をしながら子育てをするようなパワーカップルが今後も増える」とみる。

近年の賃上げの波もあり、パワーカップルに限らず名目の手取り自体は増えている。総務省の家計調査によると、24年の二人以上の勤労者世帯の可処分所得は月52万2569円だった。過去10年間で約10万円増えた。
問題は使い道だ。消費支出は32万円と、10年前から1万円ほどしか増えていない。残りはほぼ貯蓄に回っている。

コロナ禍やウクライナ危機を経て押し寄せた歴史的なインフレの下、家計は節約志向を強めている。内閣府の調査では「毎日の生活を充実させて楽しむ」よりも「貯蓄や投資になど将来に備える」と答える割合が60歳未満の層で66%を占める。
国内総生産(GDP)統計でみた個人消費もさえない。実質の額(15年基準)は24年度に299兆円にとどまった。コロナ禍以前の水準にまだ戻っていない。

ともに年1000万円以上を稼ぐ夫婦は現状では全体の1%に満たない。こうした消費意欲の旺盛な層を広げるには旧来の慣行の再点検も欠かせない。例えば転勤だ。法制大学の武石教授は「配偶者が働いていないことが前提で、すでに制度疲労を起こしている」と指摘する。

誰もが働きやすい環境を整えられなければ成長はおぼつかなくなる。日本は労働市場の硬直性も背景に実質賃金が伸び悩んできた。24年の平均年収は物価の違いをならした購買力平価ベースで30年前よりも減り、経済協力開発機構(OECD)平均より少なくなった。

パワーカップルの一般的な基準となる一人700万円では今や米国やドイツなどの平均水準にも届かない。十年一日のごとく変わらない700万円や1000万円といった目安が変わらなければ停滞は打破できない。

(参考 日経新聞 令和7年9月7日より)